大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)2452号 判決 1960年6月28日
主文
原告の請求はこれを棄却する。
参加人の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用中原告と被告の間に生じた分は原告、参加によつて生じた分は参加人の各負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金六〇〇、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一、訴外インドネシヤ。マラヤ。エキスポータースことチエタンダス。ジエタナンド。ハテイラマニは昭和二八年四月被告から大阪市東区南本町二丁目四〇番地福武ビルデイング第六〇五号室を賃借したが、その際建築援助資金名義で敷金を被告に差入れた。
二、ハテイラマニは昭和三〇年九月五日訴外ラムチヤンド。ウタムチヤンド。マブバニに右「インドネシヤ。マラヤ。エキスポータース」の商号を営業とともに譲渡した。したがつて前記敷金返還請求権も当然右営業譲渡にともなつて、マブバニに譲渡されたのである。そしてマブバニはその後前記福武ビルデイング第六〇五号室を賃借していたが、昭和三〇年九月末日限り右室を明渡した。よつてマブバニは前記敷金の残額金六〇〇、〇〇〇円の返還を求める権利をえたのである。
三、原告は訴外マブバニに対し、同訴外人との間の当座貸越契約にもとづいて、昭和三〇年九月二〇日現在金二、一九〇、四三二円の貸越となり、同年一〇月一一日神戸地方裁判所に右訴外人を相手方として、右貸金の内金八一二、〇〇〇円につき当座預金貸越金返還請求訴訟(同年(ワ)第九二三号)を提起し、翌三一年三月二九日原告全部勝訴の判決が云渡され、同判決は同年四月三〇日に確定した。そこで原告は同年五月二日右判決の執行力ある正本にもとづいて、同裁判所に、マブバニが被告に対して有する前記敷金の残金六〇〇、〇〇〇円の返還請求権につき債権差押ならびに転付命令を申請し(同年(ル)第一八五号、同年(ヲ)第二〇六号)、同命令はマブバニには同月一八日、被告には同月七日にそれぞれ送達された。
四、したがつて、原告は被告に対し右金六〇〇、〇〇〇円の債権を有するから、右同額およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による損害金の支払を求める。
と述べ、
被告の抗弁事実を否認し、
参加人の請求に対し「参加人の請求を棄却する。参加による訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、
その請求原因に対する答弁として、
インドネシヤ。マラヤ。エキスポータースがハテイラマニとマブバニを組合員とする組合であることは否認する。かりに組合であつたとしても、民法上の権利能力を有しないものであり、また被告との間の本件賃貸借契約はハテイラマニ個人との間で成立したのである。その余の参加人主張事実は知らない。
と述べ、
証拠(省略)
被告訴訟代理人は原告および参加人の請求に対して、主文と同旨の判決を求め、
原告の請求原因に対する答弁ならびに抗弁として、
一、ハテイラマニが原告主張のころ被告から原告主張の部屋を賃借し、その際被告に原告主張の金員を交付し、被告はハテイラマニに対し右金員のうち残額金六〇〇、〇〇〇円を返還すべき債務を負担していること、原告主張のような債権差押、転付命令の送達を受けたことはいずれも認める。
二、ハテイラマニがマブバニにその営業を譲渡した事実は否認する。
かりに譲渡がなされたとしても、本件敷金返還請求権が当然に含まれるものではなく、また右権利も譲渡されたのであつても、その譲渡につき被告に通知する等の対抗要件を充していないし、右権利については本件賃貸借契約成立当時からハテイラマニと被告との間で譲渡禁止の特約が成立していたのであるから、いずれにしても、原告主張の債権譲渡は被告に対抗できない。
三、その余の原告主張事実は知らない。
と述べ、
参加人の請求原因に対する答弁ならびに抗弁として、
一、組合インドネシヤ。マラヤ。エキスポータースと被告との間で賃貸借契約が成立した事実は否認する。被告はハテイラマニに対して部屋を賃貸したのであり、その契約の際同人からは組合のことについては何の説明もなく、「インドネシヤ。マラヤ。エキスポータース」なる名称も単に同人の使用する商号として契約書に表示したのである。
二、参加人が右組合に対して金一二、一五〇、一五六円の債権を有することは知らない。
三、(1) かりに本件賃貸借契約の相手方が組合であつたとしても、質権設定の事実を否認する。そして質権が設定されたとしても、その設定について対抗要件を充していないし、また被告とハテイラマニの間では質権設定禁止の特約が賃貸借契約締結の当初から成立している。
(2) 参加人は組合に対して有する債権を保全するために、ハテイラマニ個人の債権を代位して支払を求めることはできない。
と述べ、
証拠(省略)
参加人訴訟代理人は「訴外組合インドネシヤ。マラヤ。エキスポータース(組合員チエタンダス。ジエタナンド。ハテイラマニ、同ラムチヤンド。ウタムチヤンド。マブバニ)は被告に対して、同組合と被告の間で昭和二八年二月一三日に成立した福武ビル一部賃貸借契約にもとづき、貸付金九八四、〇〇〇円の残金六〇〇、〇〇〇円について返還請求権を有することを参加人と原告および被告との間で確認する。被告は参加人に対し金六〇〇、〇〇〇円およびこれに対する参加申出書送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。参加による訴訟費用は原告および被告の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、
その請求原因として、
一、訴外組合インドネシヤ。マラヤ。エキスポータースは組合員ハテイラマニとマブバニによつて設立されたが、昭和二八年二月一三日、ハテイラマニは右組合を代表して被告との間で大阪市東区南本町二丁目四〇番地福武ビルのうち六階の一室一一坪六合を被告から賃借する契約を締結し、同時に組合は被告に貸付金等の名目で敷金九八四、〇〇〇円を交付した。右契約の書面(丙第一号証)にハテイラマニの署名の肩書として「インドネシヤ。マラヤ。エキスポータース、パートナー(組合員)」と記載されていることからも、被告からビルの一室を賃借したのは組合であることが明らかであり、被告がこれを知らない理由はない。
二、参加人は昭和二八年三月一二日から右組合との間で当座取引を行つていたが、同組合は同三〇年八月二六日付書面で組合の解散を参加人あてに通知してきた。そして参加人は右組合解散当時組合に対して当座貸越金七、五五〇、一五六円、現金信用貸金四、六〇〇、〇〇〇円、計金一二、一五〇、一五六円の債権を有していた。
三(1) 参加人は前項の債権を担保するために、組合から、組合が被告に対して有する前記金九八四、〇〇〇円の返還請求債権につき質権の設定を受け、被告が組合に対して発行した前記敷金の領収証三通(丙第二号証の一ないし三)の交付を受けた。
(2) 参加人は前記のように組合に対し金一二、一五〇、一五六円の債権を有しているのであるが、組合は解散し、マブバニは現在海外にいるような状態なので、参加人の債権を保全するため、組合が被告に対して有する前記債権金九八四、〇〇〇円の残金六〇〇、〇〇〇円の請求権を組合に代位して行使する。
四、よつて参加人は原告および被告に対しては前記金六〇〇、〇〇〇円の債権の組合に属することの確認、被告に対しては前記質権または債権者代位権にもとづいて、金六〇〇、〇〇〇円およびこれに対する参加申出書送達の翌日から支払済まで年五分の割合による損害金の支払を求める。
と述べ、
被告の抗弁に対し、
参加人は組合に代位して支払を求めるのであるから、譲渡禁止条項の制約を受けるものではない。
と述べ、
証拠(省略)